身近な壁|NHKスペシャル「老人漂流社会」にみる老後破産の現実
年々高齢者の割合が大きくなり、必要とされる病院や介護施設の数が不足している状態になっています。
そのため病院や施設、そして自宅を転々とする高齢者が多い状態をさして「老人漂流社会」と呼んでいます。
さらに、超高齢社会に伴って必要となる年金額が上がることから、働く世代の負担も年々上昇しています。
しかし、年金を受給する側の高齢者も数が多いために受け取る額は年々減少しており、生活がままならなくなるケースも少なくありません。
また、一人暮らしをする高齢者の割合も高くなっており、年金収入だけでは生活できず、生活保護に頼らざるを得ない人も増えています。
こういった高齢者を取り巻く状況について放送された、NHKスペシャル「老人漂流社会」は大きな反響を得たものでした。
その内容について簡単に紹介します。
Contents
NHKスペシャル「老人漂流社会」とは
NHKスペシャル老人漂流社会は、2013年より放送されているテーマのひとつです。
超高齢社会の現在では、体を壊す、または年齢などの理由で、病院や施設へ入ろうとしても入ることができないケースが増えています。
以前なら、歳をとったら病院や施設のお世話になることが一般的であったでしょう。
しかし、医療の進歩により延びた平均寿命や高齢者数の増加により、必要としていれば誰でも利用できるというわけにはいかなくなりました。
そのため行き場を失い、終の住処で安心して全うすることが難しい高齢者も増えてきています。
自宅で暮らすことのない事情を抱えていながら、同じ施設に長く暮らすことが許されず、一時的な入居を繰り返さざるを得ない高齢者が増えていることから「老人漂流社会」とタイトルづけられています。
「老人漂流社会」の過去放送分
NHKスペシャル老人漂流社会は放送されるたび、視聴者から多くの意見や感想が寄せられる人気のシリーズとなっています。
誰もが歳をとり老人となっていくことを思えば、誰ひとり他人事と考えることはできないからでしょう。
それではこれまでの放送分の内容をまとめてご紹介します。
終(つい)の住処(すみか)はどこに
「終(つい)の住処(すみか)はどこに」は2013年1月20日に放送された、シリーズ第1回です。
終の住処とは、死ぬまで過ごす住まいのことを意味する言葉で、歳をとっていくほどどこを終の住処とするかを考えるものでしょう。
しかし、独居高齢者の場合、自宅だけを終の住処とすることは難しく体調を崩せば病院などに頼らざるをえません。
ですが、病気やケガが回復すれば入院していた病院から退院しなくてはならないのです。
そして、一人でその後の生活をすることが難しければ満床の介護施設の中から一時的に入所できるところを利用し、数か月ごとに渡り歩くことになります。
こうなった高齢者の多くは、長生きは他人に迷惑ではないかと考えるようになるそうです。
その他にも、一人では生活ができなくなった独居老人が殺到しているのが、NPOの運営する無料低額宿泊所です。
かつてはホームレスの宿泊所として使われていた施設ですが、現在では自治体のあっせんにより下流老人と呼ばれる高齢者が送られてくるようになっています。
ちなみに、下流老人とは生活保護基準程度や、それに近い暮らしをする高齢者のことをさします。
しかし、ここは認知症になると利用することができないため精神科病院へ送られ、症状が改善するとまた病院を出されることになってしまいます。
この繰り返しをし、漂流し続ける下流老人が増えている現在は異常な状態といえるでしょう。
“老後破産”の現実
「“老後破産”の現実」は2014年9月28日に放送された、シリーズ第2回です。
超高齢社会となった日本は、独居高齢者の割合も大きく、高齢者の2割を超える数字になっています。
さらに、その半数が生活保護水準以下の低い年金受給額しかない状態で暮らしているのです。
その人たちが全て生活保護を受けているかといえばそうではなく、生活保護を受けずに5割以上の高齢者が暮らしています。
そのようなギリギリの状態で暮らしているにも関わらず、年金受給額は年々下げられ、年齢と共に医療や介護の負担が大きくなっていくのが現実です。
貯金もない状態で何とか暮らしてきていた高齢者が、破産寸前にまで追い込まれています。
そして、年金が少ないことにより、医療や介護サービスが受けられないという訴えも多数出ている状態です。
そのため自治体のスタッフはそれらの高齢者サービスが継続できるように、生活保護申請の手続きに負われている状態となっています。
親子共倒れを防げ
「親子共倒れを防げ」は2015年8月30日に放送された、シリーズ第3回です。
年金収入だけでは生活できず、生活保護を受けて暮らす独居老人が増えていますが、働く世代の子供と暮らす高齢者の中にも老後破産の危険性があります。
一見、子供と暮らしているのなら、その稼ぎで支えてもらえば安心ではないかととらえられるでしょう。
しかし、働く世代の中で非正規雇用者の割合もあがっていることから、いつ働く子供が職を失うともわかりません。
そこでもし、子供が仕事を失ってしまえば親の年金を頼って生活せざるを得なくなるのです。
すると、そのまま子供が仕事を見つけられず年金での生活が続いていけば、親も年齢と共に医療や介護に必要な費用の割合が大きくなってくるでしょう。
負担がかさめば少ない収入から支払いが難しくなっていき、高齢者サービスが受けられなくなることも起きてきます。
その結果、生活が立ち行かなくなり、親子共倒れとなってしまいます。
親子一緒に暮らしていると、周囲からすれば生活は安定していると見られてしまいがちですが、水面下で老後破産が進行していることも少なくありません。
団塊世代 忍び寄る“老後破産”
「団塊世代 忍び寄る“老後破産”」は2016年4月17日に放送された、シリーズ第4回です。
日本の発展のために働き支えてきた団塊世代と呼ばれる人たちが、現在老後破産の危機に直面しています。
団塊世代を詳しく説明すると、1947~51年生まれの戦後世代で約1000万人いると言われています。
この人たちが現役で働いていた頃は終身雇用が当たり前で、きちんとしたところで働いていれば老後の不安も比較的ないとされていました。
しかし、バブルが崩壊したことにより給与などの所得や退職金の額は減少し、しかも長寿化により自分の親の介護にも費用がかかるようになっているのです。
さらに、団塊世代の子供たち「団塊ジュニア」は就職氷河期であったために、安定した職に就くことが難しく、不安定就労の割合が高くなっています。
そのため、自立して一人暮らしなどをする余裕はなく、親と同居している未婚者の数も多くなっているのが現実です。
すると、団塊世代は親の介護と子の支援の負担を追うことになり、収入だけではままならず、貯金を切り崩して生活する状態になっていきます。
しかも、年金だけで暮らす団塊世代の貯金額は年々減り続けており、団塊世代の人たちは生活のために働き続ける人の割合が大きくなるのです。
「老人漂流社会」にみる老後破壊問題
行き場を求めて転々とする高齢者が多くなっていることや、年金額の減少により生活保護を受けなくては暮らせない高齢者がいること。
そして、子供の失職から次第に親子共倒れの危機が忍び寄るような状況がある現在の日本ですが、これは一時だけでのものではなく、今後も引き続き考えていかなくてはならない問題でしょう。
今は現役世代として働き、収入を得ている人たちであっても、自分たちの老後に降りかかってくる可能性がこのままではとても高くなっているからです。
収入自体が減少しているため、将来受給できるはずの年金受給額がさらに下がることが考えられます。
受給額が減ったとしても保険料や税金は徴収されるため、より手にする年金が下がることから、下流老人の割合は増えていくことが予想されるのです。
視聴者の声
NHKスペシャル「老人漂流社会」を見た人の多くが、年代を問わず、やるせない気持ちを抱いていました。
今は働いて収入があるけれど、いずれ自分も歳をとり高齢者になった時このような状況に陥る可能性があるという不安感を抱いたようです。
核家族が当たり前となり、高齢者が最期をみとられることなく亡くなるケースも珍しくなくなってしまったこと、経済は豊かになったけれど本当に幸せかという疑問などを持ったという意見もありました。
結果的にお金がなければ安心して死ぬこともできないという状況から、今後は子供よりもまずお金、という冷たい社会になっていくことを心配する意見も。
番組内では国の施策の必要性を少し語っていましたが、年金制度などの充実を求める声も多数寄せられています。
老後破産対策のためには社会の施策が求められる
年収400万円あったとしても、老後は生活保護を受けざるを得なくなる人が少なくないといわれています。
すると、高齢者の多くが生活保護受給者となり、ますます国の財政に大きな負担をかけることになるでしょう。
それでは年金受給額をアップさせればよいか、と言えばそれだけでは解決はしないはずです。
年金を納める世代の収入が上がらなければ、納められずに将来年金を受け取ることのできない人が増えてしまい、将来の生活保護受給者が増えていくでしょう。
そのため、漂流老人の数を減らしていくためには、社会全体のあらゆる施策が必要と言えます。
- NHKスペシャル老人漂流社会とは2013年より放送されている「行き場を失い、終の住処で安心して全うすることが難しい高齢者」をテーマにした番組である。
- 老後破壊問題は今後も引き続き考えていかなくてはならない問題である。
- 視聴者からは、やるせない気持ちや不安の声、年金制度などの充実を求める声も寄せられている。